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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2908号 判決 1961年6月28日

控訴人 渡瀬鉄男 外七名

被控訴人 高橋要市

主文

一、原判決主文第二項中、被告(控訴人)鈴木、同高野、同広田、同結城、同高木に関する部分を次のとおり変更する。

(イ)  原告(被控訴人)が原判決主文第一項記載の本登記を経由したときは、原告に対し、

被告(控訴人)鈴木は原判決別紙物件目録(一)記載の家屋のうち階下玄関横の約一〇坪の応接間および風呂場前の二畳間を、被告(控訴人)高野は同家屋のうち二階の道路に面した一〇畳廊下付の室を、被告(控訴人)広田は同二階のうち、右室の奥の六畳間および三畳廊下付の室を、被告(控訴人)結城は同二階のうち右室の向つて左方の四畳半および六畳の室を、被告(控訴人)高木は同目録(二)記載の家屋を、それぞれ明け渡せ。

(ロ)  被告鈴木、同高野、同広田、同結城、同高木に対する原告のその余の請求を棄却する。

二、前記一以外の部分に関する本件控訴は、これを棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審を通じ、これを十分し、その五を控訴人渡瀬鉄男、その三を控訴人株式会社七曜商会、その二を爾余の控訴人らの各負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

(一)  当裁判所の判断は、左記訂正部分を除き、原判決説示にかかる一、二および四ないし六の理由と同一であるから、これを引用する。

(二)  原判決一三枚目(記録四二丁)裏六行目から一四枚目表一行目までを次のとおり訂正する。すなわち、

本件弁論の全趣旨によれば、控訴人鈴木、同高野、同広田、同結城、同高木は、本件家屋につき被控訴人主張の如き仮登記手続がなされたのち、右控訴人ら各自の占有部分を、当時の所有者であつた控訴人渡瀬鉄男から、それぞれ賃借した事実が認められる。しかして将来被控訴人が右仮登記の本登記手続をしたときは右賃貸借は被控訴人に対抗し得なくなることもちろんであるけれども、右本登記手続が終るまでは、同控訴人らは、被控訴人の右登記の欠缺を主張し得る第三者に該当し、同控訴人はその所有権の取得を対抗し得ない筋合である。それ故、右本登記手続が未だ終つていない現在においては、被控訴人は同控訴人らに対し、所有権を理由として、同控訴人らの占有部分の明渡並びにその不法占有を理由とする損害金の支払を求めることはできないが、将来被控訴人が右本登記手続を終つたときは、同控訴人らに対しそれぞれの占有部分の明渡を求め得ることは当然というべきである。(被控訴人は、本件家屋の即時明渡の請求が認められない場合、右の如き将来の明渡をも求める意思であることは、弁論の全趣旨に照らし明白である。)されば結局、同控訴人らに対する被控訴人の請求は、本件家屋につき右の如き将来の明渡を求める限度においては正当であるが、その余は失当というのほかない。

次に控訴人渡瀬仁子は、控訴人渡瀬鉄男の所有権に基き自己の占有部分を使用している旨主張するが、単にそれだけのことでは、本件家屋につき所有権を取得した被控訴人の登記の欠缺を主張し得る第三者に該当しない。(なお、原審における被告渡瀬鉄男本人尋問の結果によれば、控訴人渡瀬仁子は、控訴人渡瀬鉄男の妹である関係上、同人の許諾の下に事実上、右占有部分を使用しているにすぎず、なんら権利として、これを使用しているものでないことがうかがわれるのであり、かかる事実関係の下においては、すでに本件家屋の所有権が同人から被控訴人に移転した以上、控訴人渡瀬仁子は被控訴人の登記の欠缺を主張し得る正当な利益を有するものといえないこともちろんである)。されば、控訴人渡瀬仁子は、被控訴人に対し、本件家屋中その占有部分を明け渡し、かつ本件訴状が同控訴人に送達された日の翌日であることが記録上明白である昭和三四年六月一八日以降右明渡ずみに至るまで、その公定賃料相当額以内であることにつき当事者間争のない一カ月金二、一二八円の割合による損害金を支払うべき義務のあることは明白である。

(三)  以上の次第であるから、被控訴人の本訴請求中、控訴人鈴木、同高野、同広田、同結城、同高木の五名に対する分は、本判決主文第一項(イ)の限度においては正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきであり、右控訴人ら五名を除くその余の控訴人らに対する分は、すべて正当として認容すべきである。よつて控訴人らに対する被控訴人の本訴請求の全部を認容した原判決は、以上と符合しない限度においてこれを変更すべく、原判決中その余の部分に関する控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条第一項、第九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 牛山要 田中盈 土井王明)

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